大学部活動の商業化における
「一般社団法人」設立のメリット

■スポーツの成長産業化

2017年、第2期スポーツ基本計画がスポーツ庁から発表され、その中に「スポーツの成長産業化」についての記載があった。その内容は、2025年までに日本のスポーツ市場規模を15兆円にするというものであり、簡単に言えば、今後「スポーツでもっと稼ごう」ということであった。さらに「大学のスポーツ資源の活用」についての記載もあり、これは日本版NCAA(現在のUNIVAS:一般社団法人大学スポーツ協会)の設立に向けた大きな期待の表れであった(→現在、第3期スポーツ基本計画に引き継がれている)。
NCAA(National Collegiate Athletic Association)とは、全米大学体育協会であり、アメリカの大学スポーツを統括する組織で、その特徴として各カテゴリーに分かれた大学同士の対抗戦が非常に盛り上がっていること、就学支援がしっかりとしていること、そして放送権等の大きな収入による充実したスポーツ環境(ソフト・ハード共に)があること、などがあげられる。今後、日本においても、NCAAを参考とした大学スポーツ環境の充実や活性化が期待されているのである。

■日本の大学スポーツの現状と課題

現在、日本の大学部活動の立ち位置は、一言でいえば曖昧である。大学ごとに違いはあれど、その多くは学生部などの管轄で、ある程度の予算はあるが、すべての部にたくさんの支援が行き届いているわけではない。その多くは学生自らの部費や父兄、OB・OGから寄付金等を集めている状況であり、使える予算は決して十分ではない。大学での部活動の位置づけは、もちろん大学が管轄するものであるが、実際の運営はある程度、各部の内部自治に委ねられている、いわゆる「任意団体」的な立ち位置である。なかには自らでお金を集め、指導者に謝金を支払ったり、第三者と契約を行うこともある。近年ではスポンサー契約をすることも少なくない。これらの行為がすべて大学を経由して処理されているならば大きな問題はないだろうが、そのあたりの処理や取り扱いが、部(任意団体)としてあまり明確になっていないことも少なくない。例えば・・・

  • 謝金の支払いには税務処理がされているだろうか(源泉所得税)?
  • そもそも指導者は誰とどのような契約をしているのだろうか?
  • その契約上、トラブルが発生した場合に、誰にどのような責任があるのだろうか?
  • お金を集めている以上、予算書や決算書は作成しているのだろうか?
  • 経費の使い方は正しいだろうか?
  • その集めたお金に税金はかからないだろうか?
  • 物事の決め方は独断ではなく、多数決で決められているのだろうか?

等々、実際に大学スポーツにも商業化が叫ばれるなか、今後、大学スポーツが扱うお金の額が大きくなるのであれば、こういった諸々の処理や取り扱いが明確にされることが望まれるだろう。

■大学部活動と法人化

部を運営するにもお金がかかる。もし大学スポーツ界に潤沢なお金があれば、学生たちの金銭的な負担を減らすことができるし、もちろん強化に使うこともできる。さらに学生たちにとってスポーツを通じた教育の実践など、もっと有意義な活動をすることができるだろう。これは誰でもが願うことであるが、しかし現実的にそんな余裕は無い。その足りないお金を補うために寄付等を募るのだが、任意団体として持てる銀行口座は、誰かの名前を借りなければならず(例えば、今はいない数年前の部長名義のままになっているなど)、寄附する側(企業や個人等)にとって寄附を受ける側(部)の存在が不明瞭であり、寄附しにくいこともある。そこで寄附する側(企業や個人等)にとって寄附を受ける側(部)が明瞭で、寄附をしやすくさせるための方法として、部の法人化(一般社団法人)という動きが近年見られるようになった(法人化することで法人口座を持つことができる)。
部の法人化とは、けして部活動自体を大学からくり抜いて、別組織として活動するわけではなく、部はあくまでも大学内部に残し、その部を管理する仕組みとして、大学の外に一般社団法人などの非営利を目的とする法人を設立することである。今後、お金のやり取りはすべて部ではなく、一般社団法人が行うことになるので、寄附する側(企業や個人等)としては、寄附を受ける側(一般社団法人)が明確となり、寄附しやすくなるだろう。また法人化することで法律上の権利義務の主体となるため、今まであやふやな立場で締結していた指導者や第三者等との契約も、一般社団法人が契約の主体として結ぶことができる。このように一般社団法人を作ることで、わざわざ大学会計を通さずに、寄附やスポンサー等を受けることができるのである。
大学会計を通さない、というと聞こえは悪いが、本来、大学は教育・研究が主たる目的であるため、部活動から派生する今までに予期しなかった収入があった場合、時にその取扱い、会計処理等が面倒な場合が想定される。また一旦大学会計に入ると、迅速に、且つ、自由に使えなくなることもある。それらを避け、自由度の高いお金をダイレクトに部活動に充てるためには、大学会計を通さず、一般社団法人が各種契約の主体として、父兄、OB・OGに対して寄付金を直接募る、また一般社団法人が各企業等とスポンサー契約を直接結ぶことが望ましいと考えられる。
そして法人である以上、法律に則った運営をしなければならない。これは法律に従うことで、自分たちがやらなければならないことが明確になるという大きなメリットである。例えば多数決による意思決定、決算報告、情報公開、納税等、組織としてのガバナンスの構築、コンプライアンスの向上等が期待できるのである。ガバナンスとコンプライアンスは、今後大学スポーツが「稼ぐ」ためには、重要なポイントとなるだろう。
これらのことを期待して、すでに京都大学、東京大学のアメフト部や慶応大学のラグビー部、明治大学のサッカー部などが一般社団法人を設立している。
以下に参考になるリンクをあげておく。
京都大学 https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2016-09-02
東京大学 https://4years.asahi.com/article/14525593
慶應大学 https://krc.keiorugby.com/outline/
明治大学 https://msm.or.jp/

■一般社団法人が適当な理由

一般社団法人は、2008年に施行された「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」により誕生した非営利を目的とする法人である。従来、公益法人として社団法人と財団法人が存在していたが、この法律の施行により、より公益性を追求する公益社団法人と公益財団法人、それら以外の一般社団法人と一般財団法人の2階建てとなった。社団とは「人の集まり」であり、財団とは「財産の集まり」である。また社団法人と同じく「人の集まり」である非営利を目的とした法人として、1998年施行された「特定非営利活動促進法」に基づく特定非営利活動法人(以下「NPO法人」という)がある。
部の法人化においては、人の集まりである一般社団法人かNPO法人のいずれかが、その選択肢としてあげられるが、大学側のコントロールが効くという観点で見れば、一般社団法人が適当である。なぜなら一般社団法人の総会の議決権は二票(設立後一票でも可)あればよく、その二票を大学側が保有していれば、一般社団法人に対して大学側の意見を通すことが容易にできるからである。これは大学と部活動(をマネジメントする法人)を分離させないための重要なマネジメントである。またNPO法人には管轄庁(都道府県等)があるが、一般社団法人はNPO法人でいう管轄庁はなく、NPO法人と比べると、運営の自由度が格段に高い。またNPO法人は公益(公共の利益)であるが、一般社団法人は公益でなくてもよい=共益(共同の利益)のため、「大学」=共同の利益という意味で、部の法人化は共益=一般社団法人が適当であろう。

■理想的な大学部活動組織のあり方とは?

現在、部活動の法人化は少数の大学で、各部ごとに行われている状況であるが、今後理想としては、各部が独自に一般社団法人を設立するのではなく、大学として一つ、部活動全体を支援する一般社団法人を設立することが理想である。なぜなら各部ごとに一般社団法人を設立すれば、ひとつの大学に何個もの一般社団法人ができることになり、それは無駄なことである。またひとつの部だけではなく、大学部活動全体を支援することを目的として掲げれば、一競技だけではなく、大学に関係する全ての人々に対して様々なアプローチをすることができる。そして集まった支援は、各部に分配され、安定した運営をすることができるだろう。また支援(寄付等)方法には、支援先を定めた支援か、支援先を定めず部活動全体への支援か、支援する者が決められるようにしてもよい。これならピンポイントにある部へ支援したい者、そうでない者の意向を叶えることができるだろう。
今後、各部の自助努力ではなく、部活動のマネジメントを統一化し、大学全体として考え、部活動への支援を最大化することが期待される(⇒アスレティックデパートメント)。この最大化を実現するためには、大学の外に部活動のマネジメントを専門とする一般社団法人を設立することが効果的である。

谷塚 哲
東洋大学 健康スポーツ科学部 健康スポーツ科学科 講師
専門分野はスポーツビジネス法、スポーツマネジメント、スポーツビジネスなど
【主な著書】
「スポーツビジネスと法」『はじめて学ぶスポーツと法』みらい(2023年)
変わる! 日本のスポーツビジネス 』カンゼン( 2017年) 
地域スポーツクラブが目指す理想のクラブマネジメント「ソシオ制度」を学ぶ』カンゼン(2011年)
地域スポーツクラブのマネジメント』カンゼン(2008年)