大学のスポーツ資源の活用

■体育・スポーツ分野の範疇の拡大と専門分化傾向

2017年に発表された第2期スポーツ基本計画では「大学のスポーツ資源の活用」と題して、日本版NCAA(現UNIVAS)の創設やスポーツアドミニストレーターの設置について触れ「大学スポーツを地域・経済の活性化の起爆剤へ」と大きな期待が記されている。そもそも大学には様々な資源(人やノウハウ、施設等)があるが、その多くが大学内部でしか活用されていないことも少なくない。その資源が地域社会にも活かされるのであれば、その地域ではさらなる発展が期待され、それは必ず大学にも返ってくることだろう。少子高齢化社会、人口減少の中で、大学は学内にとどまらず、もっと学外にも目を向けるべきである。
今後、地域に開かれた大学として、積極的な大学のスポーツ資源の活用が望まれてくる。

出典:スポーツ庁「第2期スポーツ基本計画ースポーツが変える。未来を創る。」(2017年4月)

■大学スポーツ施設の活用

大学のスポーツ資源の活用には、大学スポーツ施設の活用も含まれている。大学スポーツ施設を地域住民へ開放したり、また興行的なスポーツイベントを企画・運営したり、さらに外部のスポーツ団体に貸出すことなども考えられる。最近では青山学院大学のアリーナをプロバスケットボールクラブがホームアリーナとして使用している例がある。現状、数千人が座れる観客席があり、たくさんの人々が観戦できる仕様になっている大学スポーツ施設が多いわけではないが、今後、地域に開かれた大学ということも視野に入れ、大学スポーツ施設において興行的なスポーツイベントが行われ、そこに学生のみならず地域住民も招待することは、大いに期待される姿であろう。しかし大学スポーツ施設を興行的に使用する場合、自由に使用できるわけではなく、いくつかのルールを遵守しなければならない。今回はその中でも興行場法について説明する。

■大学スポーツ施設と興行場法

そもそも教育・研究を目的として建てられた大学スポーツ施設を興行的に使用する場合、その使用方法によっては、興行場法に従い、都道府県知事の許可を得なければならない可能性があるため、その使用において大学は興行場法をしっかりと理解する必要がある。厚生労働省ホームページ「興行場法概要」によれは、興行場の定義として以下の内容が記されている。

興行場は「映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸又は観せ物を、公衆に見せ、又は聞かせる施設」と定義されているが、これらの営業を行う場合には興行場法に基づき都道府県知事の許可を得なければならない。

さらに同ページには、興行場法の適用を受ける興行場として以下が記されている。

具体的に興行場法の適用を受ける興行場は、映画館、劇場、寄席、音楽堂、野球場、見世物小屋等の施設である。なお、業として映画等を上映しない場合は興行場法の適用はない。業とは反復継続の意思をもって行われることで、社会性は必要であるが、営利性は必要ではない。したがって、家族・友人のみを対象にしたものは含まれないが、会社の福利厚生施設として映画鑑賞室を設けた場合のように無料であっても対象となるものがある
なお、集会所等であってもおおむね月に5回以上映画の上映等を行う場合には興行場の許可が必要となる

出典:厚生労働省「興行場法概要

ここで注目すべきは「反復継続の意思をもって行われること」「営利性は必要ではない」「無料であっても対象となるものがある」という部分である。例えば年に数回、大学スポーツ施設で興行的なスポーツイベントを行う場合、興行場として適用を受けるか否かを判断しなければならない。そこには必ずしも営利性は必要ではなく、反復継続の意思をもって行われるかどうか、が問われることになる。もし適用されるとなれば都道府県知事の許可を得なければならない。ここで重要なのが「反復継続の意思」の解釈である。
厚生労働省のホームページには「集会所等であってもおおむね月に5回以上映画の上映等を行う場合には興行場の許可が必要となる」という部分があるが、この文章を逆説的に捉えれば、おおむね月5回未満(月4回以下)であれば都道府県知事の許可は必要ないと考えるこができ、そのため現状、大学スポーツ施設を興行的に使用する場合、この月5回未満(月4回以下)がおおむねの目安と考えられている。だからといって月4回×12ヵ月(年48回)ならば、興行的なイベントを開催することができる、という明確な記載もないことから、あくまでも月5回未満(月4回以下)は概ねの目安であり、年48回以下の開催なら全く問題が無いということではない。そのあたりについては、一度、管轄の保健所と相談する必要があるだろう。また単なる興行的な使用ではなく、その使用が大学の教育・研究や大学と地域との連携のためなどの使用であることが大前提となる。なぜなら大学のスポーツ施設は、そもそも興行を行うことを目的として建設されたものではないからであり、その本来の目的を見失ってはならない。
もし大学のスポーツ施設で自由に興行的なスポーツイベントを行いたいならば、都道府県知事の許可を得ればよいだけの話ではあるが、許可を得ること(その後の維持管理を含む)は、興行を行うことが主たる目的ではない大学スポーツ施設としては現実的ではない。だからこそ大学は、興行場法の内容をしっかり理解しなければならない。
また、大学スポーツ施設を教育や研究、学生の活動といった本来の目的を超えるような使用から大きな収入を得る場合、大学の会計や税制に影響がでる可能性があるかもしれない。
このような問題は当然に想定されているものではなく、それに直面して初めて解決の糸口が見つかる。今後、大学のスポーツ資源の活用とは、同時に新しい事例をたくさん積み上げていくことなのかもしれない。

■日本の大学スポーツの次なるステージへ

教育という範疇の中にある日本の大学スポーツは、外部からの期待に対して、まだまだ出来ることと出来ないことが整理されていないことが多い。この整理には大学に対する期待と大学本来の役割の両面をしっかりと理解する必要がある。そして発生するハードルをひとつずつクリアしていくことが重要である。その積み重ねと情報の共有こそが、日本の大学スポーツを次なるステージへ押し上げることだろう。

谷塚 哲
東洋大学 健康スポーツ科学部 健康スポーツ科学科 講師
専門分野はスポーツビジネス法、スポーツマネジメント、スポーツビジネスなど
【主な著書】
「スポーツビジネスと法」『はじめて学ぶスポーツと法』みらい(2023年)
変わる! 日本のスポーツビジネス 』カンゼン( 2017年) 
地域スポーツクラブが目指す理想のクラブマネジメント「ソシオ制度」を学ぶ』カンゼン(2011年)
地域スポーツクラブのマネジメント』カンゼン(2008年)